安部公房の秀逸な短編集-「無関係な死・時の壁」
今回読ませていただいたのは、新潮文庫から出されている安部公房の短編集
「無関係な死・時の壁」
です。
本書は、過去に様々な雑誌に掲載された安部公房の短編を厳選してまとめたもとです。
安部公房といえば、現実と空想の世界をごちゃ混ぜにしてリンクさせ、そこから現実批判をする前衛的な作家、というイメージを私は持っています。
今回の短編集では、そのような幻想的な要素よりも現実的な小説が多いです。
本書のなかで私が気に入ったのは
「誘惑者」「なわ」「無関係な死」
です。
「誘惑者」
追跡者と逃亡者の物語です。
追跡者は逃亡者の居所を掴みたいために、逃亡者の風貌など真似をして遂に追い詰めます。
しかし、真似をし過ぎた結果、最悪な結果に…
追跡者でありながら逃亡者の心境に置いている。その感情をうまく表現しています。
「なわ」
この作品は、無理心中する家族を描いた作品です。
子犬となわを使い、父親への殺人予行練習をする姉妹。
幼いが用意周到に殺人の準備をする姉妹に何処と無く悲しさが感じられます。
「無関係な死」
自分の家の玄関に自分とはまったく関係ない死体が放置されていた男の物語です。
能動的ではない死体にいつの間にか追い詰められていく男の姿が現代人の姿と重なります。
先程にも述べたように、安部公房の作品は幻想的なものが多いですが、今回の短編集のように現実的なストーリーも多くあります。
皆さんはどちらが安部公房らしいと感じますか?